父は70台、インターネットを扱えない。
会社を退職した後、母に説得される形で渋々子供用の携帯電話を持つようになった。
時が経ち、そんな父もスマートフォンを扱うようになる。
時を同じくして問題が起こり始める。
スマートフォンやパソコンなどで
最近では特に珍しい言葉でもないパスワードやIDといった言葉の意味をよく理解できていない。
というよりも理解したくないのかもしれない。
初めてスマホなどの電子機器を扱う人であれば、そういった単語を知らないと言う人もいるだろうが、我が父に至っては
「パスワードって」、「ID?」、「アップデート?インストール?」
といった具合に、以前にも説明した内容の質問を10年近く変わらず繰り返す。
家族も一向に覚えない・覚えようとしない父に愛想を尽かし、聞かれるたびにイライラを募らせる。
そして覚えない・覚えていない父もまた機嫌を悪くする。
スマホを手放して携帯電話に変更しないか以前に尋ねたこともあったが断られた。
家族に入れてもらった麻雀のアプリやline、カメラ機能は使うようなので、本人としては手放すことは考えていないようだ。
父はスマートフォンだけでなくインターネットなどに関しても苦手だ。
まず、ExcelやWordを知らないし、GoogleやYahoo!も知らない。
数年前、父はパソコン教室に通っていたのだが、そんな父に教室の先生は大変驚いたそうだ。
教室に通い始めたきっかけが母の勧めによるものなのか本人の希望だったのかは分からないが、学ぼうとしていた時期があったのは確かだ。
また車を運転するのでGoogleマップのアプリを紹介したのだが、説明を続けるうちにどんどん不機嫌に。
終いには「分からない」とそっぽを向いてしまった。
マイナンバーカードも
役所からマイナンバーカード申請手続きに関する書類が届いてもずっと手を付けずにいた。
「不正利用されるのが怖い」
と本人は言っているが、その実のところはネットでの手続きが嫌なだけであることを家族全員が知っているわけだが口にはしない。
指摘すれば本人が不機嫌になるのが目に見えているからだ。
アルバイトで
父は退職後にアルバイトをしていたことがあった。
だが現代は給与明細も電子化。
上司から登録方法について丁寧に書かれた書類を受け取っても理解できずにいた。
本人は
「紙の明細でいいですよ」
と上司の人に言ったそうだが当然断られた。
受け取った書類を後日、家族みんなで父に理解できるように説明しながら進めていたが、結局本人は途中で諦めてしまい家族が代わりにすることになった。
それでも電子上で行われるやり取りに嫌気がさしたのか、その後数日でアルバイトを辞めてしまった。
バイクや車で
そんな父が、今回もインターネットアレルギー(医学的な用語としては存在しない)を発揮する。
我が家に自賠責保険の切れた父所有のバイクがあるのだが、維持費の問題から処分することにしたらしい。
現在ではバイクの査定もネット上で予約ができて、引き取りにも来てくれる。
だがこの父はネットを毛嫌いするあまり予想外の行動に出る。
なんと父はバイクを処分するためにわざわざ自賠責保険に再加入して店まで直接乗っていこうとしていたのだ。
ネット査定よりも店までもっていった方が高く買い取ってくれることはあるかもしれないが、処分するためだけに自賠責保険に再加入して、ネット査定について教えても調べようとさえしないことに対して、絶対にネットは使わないと言う強い意志のようなものを感じる。
そして代理店に関してもGoogleマップやネットで検索することなく紙のロードマップで調べる徹底ぶり。
自賠責の件を家族が知ったのはちょうど再加入の手続きの電話をしている最中のことだった。
ネットを使えないことが幸か不幸か知るきっかけにはなったのだが。
当然筆者含め家族でネットで引き取りの予約などができることを伝えて父に再検討するよう説得を試みるが、父はこれに断固として反対。
「ネットは分からないッ!」
そう怒鳴るのであった。
結局代理店へ向かう父を止めることは誰にもできなかった。
父はもう70台も半ば、移動は自身の車を使うが運転中にうとうとして中央の白線を超えて対向車線にはみ出てしまうことが度々あった。
そんなこともあり家族みんなで何かの折に触れては免許返納の話を持ち出したが、そのたびに父は機嫌を悪くした。
いきなり免許返納は難しいと考えて、家族がプレゼントした原付バイクも功をなさず。
先日も我が家と同様に、免許返納を家族から促されていた70台の運転する車が人身事故を引き起こした。
家族が抱く心配の気持ちも当の本人には届かない。
そんな諦めの気持ちが日を追うごとに増す。


